なぜ高性能CCLは「低誘電率・低損失」を目指すのか?
― 高速信号と、樹脂・ガラスクロス・銅箔の関係 ―
高速・高周波PCBでは、銅箔の表面粗さだけでなく、基板そのものを構成するCCL(Copper Clad Laminate:銅張積層板)の電気特性も重要になります。特に注目されるのが低誘電率(低Dk)と低誘電正接(低Df)です。では、なぜ「低ければ低いほどいい」と単純に言えないのでしょうか。
1.まずCCLとは何か?
CCLは、絶縁材料の層に銅箔を貼り合わせた、PCBの基本材料です。大まかに見ると、銅箔+樹脂+ガラスクロスなどの組み合わせで構成されています。
つまり、銅箔だけを高性能にしても、高速信号用のPCB全体が完成するわけではありません。信号が通る「絶縁体側」の材料設計も重要になります。
2.低誘電率(低Dk)とは何か?
Dkは、材料が電界に対してどのように応答するかを表す指標の一つです。高速信号では、誘電体のDkが信号の伝搬速度やインピーダンス設計に関係します。
そのため、高速伝送用材料では、用途や設計条件に応じて低Dk化が検討されます。ただし、「Dkが低ければ必ず回路が良くなる」という単純な話ではありません。回路のインピーダンスや層構成、線幅、絶縁層厚さなどと一緒に考える必要があります。
高速信号を成立させるための材料・回路設計の一要素。
3.もう一つ重要なのが低Df
Dfは誘電正接(tanδ)とも呼ばれ、誘電体で信号エネルギーが熱などとして失われる程度を表す指標の一つです。
高速信号では周波数が高くなるほど、材料による損失が無視しにくくなります。そのため、CCLには低損失(low loss)が求められ、樹脂系材料の設計が重要になります。
低Dk
信号の伝搬・インピーダンス設計
誘電体の電気的な性質を整え、高速伝送の設計自由度に関係します。
低Df
誘電体による損失を抑える
高周波化したときの材料損失を小さくする方向で重要になります。
4.では、樹脂を変えれば終わりなのか?
ここが材料屋にとって面白いところです。
CCLの電気特性は、樹脂だけで決まるわけではありません。ガラスクロスの種類、樹脂の含有量、織り方、積層構成などによって、実際の基板としての特性が変わります。
特に高速基板では、ガラスクロスと樹脂の配置によって局所的な電気特性が変化することもあり、材料を「樹脂だけ」「ガラスだけ」と分けて見るのではなく、複合材料として設計することが重要です。
5.ガラスクロスが「見えない主役」になる理由
ガラスクロスはCCLの機械的な骨格として重要ですが、高速信号の観点では、それだけではありません。ガラスと樹脂では電気的な性質が異なるため、ガラスクロスの存在や配置が局所的な信号環境に影響します。
そのため高周波用途では、ガラスクロスの種類やスタイル、樹脂との組み合わせまで含めて検討する必要があります。
「低誘電率の樹脂を使えば高性能CCLになる」と考えると、話が簡単すぎます。実際には、樹脂・ガラスクロス・銅箔が同じ一枚の材料の中で、それぞれ別の役割を担っています。
材料は単体性能ではなく、組み合わせで性能が決まる。 ここにCCL設計の奥深さがあります。
6.銅箔との関係はどうなる?
ここで、これまでの銅箔記事につながります。
高速信号では、絶縁体側の低損失化だけでなく、導体側の表面粗さも伝送損失に関係します。つまり、
というように、樹脂側と銅箔側の両方を考える必要があります。
だから、AIサーバーなどの高性能PCBでは、「銅箔だけ」「樹脂だけ」ではなく、CCL全体としての材料設計が重要になります。
7.「低Dk・低Dfなら何でもいい」ではない
| 要素 | 主な役割 | 材料設計で見るポイント |
|---|---|---|
| 樹脂 | 絶縁・電気特性 | Dk、Df、耐熱性、加工性など |
| ガラスクロス | 機械的な骨格 | ガラス種、スタイル、配置、樹脂との組み合わせ |
| 銅箔 | 導体 | 表面粗さ、厚さ、密着性、信頼性 |
| 積層構成 | 基板全体の設計 | 層厚、樹脂量、配線、インピーダンスとの整合 |
高性能CCLでは、これらを個別に最適化するだけでなく、最終的なPCBとして成立するように電気・機械・熱・加工性を同時に見る必要があります。
8.AIサーバー時代にCCLが注目される理由
AIサーバーでは高速・大容量の信号伝送が求められます。そこで、銅箔の低粗度化、高性能樹脂、ガラスクロス、薄い絶縁層、高多層化など、複数の材料技術が同時に進化します。
つまりAIサーバーの材料需要を理解するには、「銅箔が増える」という一段目だけでなく、なぜ高性能CCLが必要になるのかまで見ることが重要です。
↓
高速・低損失PCBが必要
↓
CCLの低損失化+銅箔の低粗度化
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材料メーカーの技術開発へ
まとめ
- CCLは、銅箔・樹脂・ガラスクロスなどから構成されるPCBの基本材料。
- 高速信号では、低Dk・低Dfなどの電気特性が重要になる。
- CCLの特性は樹脂だけでなく、ガラスクロスや樹脂含有率、積層構成などの組み合わせで決まる。
- 銅箔の表面粗さも伝送損失に関係するため、CCLと銅箔を別々に考えすぎないことが重要。
- AIサーバーの高速化は、CCL・銅箔・ガラスクロスなどPCB材料全体の高性能化を促している。