電子材料業界の「なぜ?」を読み解く
← トップへ戻る

電子材料徒然草

電子材料・PCB・半導体業界の「なぜ?」を読み解く

管理人 平賀 兼好 (ひらが ケンコウ)

なぜAI半導体では「ガラスコア基板」が注目されるのか?

― 大型・高密度パッケージで、なぜ「ガラス」が土台になるのか ―

前の記事では、Tガラスのようなガラスクロスと、AIパッケージで話題になるガラスコアは別の技術だと整理しました。今回は、その「ガラスコア」をもう一段掘り下げます。ポイントは、ガラスが単に「高性能な材料」だから注目されているのではないことです。AI・HPC向けパッケージが大型・高密度化すると、平坦性、寸法安定性、微細配線、熱膨張、電気特性を同時に成立させる必要があり、その土台としてガラスの特性が効いてきます。

有機コアからガラスコアへ ― 材料要求が変わる理由
AI・HPCチップレット+HBM
高帯域・高密度化
パッケージ大型化広い面積で
平坦性・寸法精度が重要
有機材料の課題反り・CTE差・
微細配線との両立
ガラスコア高い剛性・平坦性・
寸法安定性を狙う

図:AI・HPCの高密度化によって、パッケージの「土台」に求められる性能が変化する流れを示した概念図。個別製品の構造を示すものではありません。

1.そもそも「ガラスコア基板」とは何か?

ガラスコア基板は、半導体パッケージの基板構造の中で、従来の有機材料によるコアの代わりにガラスをコア材料として使う考え方です。ガラスの両面や周辺に配線・ビルドアップ層を形成し、必要に応じてガラスを貫通するTGV(Through-Glass Via)で上下を電気的につなぎます。

ビルドアップ配線
Cu
ガラスコア
TGV
Cu
ビルドアップ配線

模式図:ガラスコアを中心に、上下の配線層とTGVを組み合わせるイメージ。実際の層構成や材料は用途・メーカーによって異なります。

ここで重要なのは、「ガラスを使ったPCB」そのものを意味するわけではないことです。ガラスコアは、特に先端半導体パッケージの基板として、寸法安定性や微細加工との組み合わせを狙う技術です。

2.なぜ「大型化」でガラスの価値が上がるのか?

小さなパッケージでは、多少の寸法変化や反りがあっても、設計や実装条件で吸収できる場合があります。しかし、パッケージが大型化し、さらにチップレットやHBMなどの接続点が増えると、基板全体の平坦性や寸法のばらつきが無視しにくくなります。

大型化面積が広くなる
高密度化接続・配線が細かくなる
基板の平坦性・寸法安定性が重要微細配線や実装精度を維持したい

SEMIとGlobal Net Corp.が2026年に公表したガラスコア基板市場レポートも、AI・HPCによるより大型で複雑なパッケージが、ガラスコアへの関心を高めていると説明しています。

3.ガラスの強みは「硬い」だけではない

ガラスコアが注目される理由を「ガラスだから硬い」とだけ説明すると、本質を外します。重要なのは、剛性、平坦性、寸法安定性、電気特性、微細加工との組み合わせです。

ガラスコアで期待される特性パッケージでの意味
高い剛性大型基板の変形を抑える方向に働く
平坦性・寸法安定性微細な接続・配線を形成する土台として有利
CTE設計シリコンや周辺材料との熱膨張差を考えやすい
低損失性高速信号を扱うパッケージで電気特性の選択肢になる
TGV加工ガラスを貫通する電気接続を形成できる

AGCも、次世代半導体パッケージ向けガラスコアの利点として、剛性、平坦性・平滑性、微細・高精度な穴加工、熱・機械的寸法安定性、低損失性、絶縁性を挙げています。

4.では、Tガラスとは何が違うのか?

ここは「電子材料徒然草」として、もう一度強調しておきたいところです。

Tガラスガラスクロス

樹脂と組み合わせる複合材料の中で、低CTE・高弾性などを狙う。

主な視点:熱・機械・複合材料設計
ガラスコアコア基材

パッケージ基板の土台そのものにガラスを使い、平坦性・寸法安定性・TGVなどを狙う。

主な視点:基板構造・加工・配線・量産

つまり、どちらも「ガラス」ですが、材料の使われる場所と役割がまったく違います。 Tガラスは「樹脂×ガラスクロス」という複合材料の世界。ガラスコアは「基板のコアそのもの」の世界です。

5.最大の難所は「ガラスを作ること」だけではない

ガラスコアが有望だからといって、すぐに有機コアを置き換えられるわけではありません。ガラスをコアにすると、今度は穴をどう開けるか、TGVをどう形成するか、金属をどう接続するか、欠陥をどう検査するかという新しい製造課題が出てきます。

ガラス平坦・高剛性
穴形成レーザー等でTGVを形成
金属化Cuで電気接続
高密度配線歩留まりまで含めて量産

実際、2026年にはガラスTGVの高アスペクト比・低収縮の銅充填を狙った材料開発も公表されています。これは、ガラスコアが「ガラス板を作れば終わり」ではなく、ガラス・穴加工・金属化・検査を一つの製造システムとして成立させる必要があることを示しています。

DNPも2025年末からTGVガラスコア基板のパイロットラインを段階稼働し、2026年初めからサンプル出荷を予定すると発表しています。

6.「ガラスなら何でもいい」わけではない

ここも材料屋にとって重要です。ガラスコアに求められるのは、単に強いガラスでも、単に低CTEなガラスでもありません。

CTE・熱履歴
機械剛性・強度・欠け
電気損失・絶縁
加工TGV・微細穴・金属化
量産歩留まり・検査・コスト

AT&Sも2026年の発表で、AI・HPC向けのガラスコア基板について、従来材料が大型化するパッケージで寸法安定性、信号品質、エネルギー効率の面で限界に近づいているとの考えを示し、ガラスの平坦性や低損失性を次世代パッケージに活かす方向を説明しています。

7.ガラスコアが本格普及すると、材料メーカーの仕事も変わる

ガラスコアの面白さは、材料の裾野が広がることです。

ガラス組成・強度・CTE
加工穴形成・TGV
金属化・配線
樹脂ビルドアップ・接着
検査欠陥・寸法・信頼性

つまり「ガラスメーカーだけの市場」ではありません。ガラス、レーザー・加工、めっき・金属材料、樹脂、検査装置、パッケージ基板メーカーなどが一つのサプライチェーンとして成立する必要があります。

2026年のSEMIのレポートが市場の急拡大を予測している一方、実際の普及時期や採用範囲は、材料・工程・歩留まり・設備・サプライチェーンの成熟度に左右されます。

平賀兼好の徒然メモ
「AIが伸びるからガラス基板が必要になる」。この説明だけでは、まだ材料屋の話になっていません。

AI・HPC → チップレット・HBM → パッケージ大型化 → 平坦性・寸法安定性・微細配線の要求 → ガラスコア、という途中の階段を見ると、なぜ今「ガラス」が注目されるのかが分かります。

そして、ここでも材料単品では終わりません。ガラスの次にはTGV、銅、樹脂、検査、歩留まりが待っています。特殊材料が市場になる瞬間は、材料単品ではなく「工程全体の課題」を解いたときなのかもしれません。

まとめ

参考・確認した公開情報
SEMI / Global Net Corp.「Glass Core Substrate Market and Development Trends」:AI・HPC向けガラスコア市場の背景と普及課題を確認。
AT&S「Glass core substrates for AI, high-performance computing and photonics」:大型パッケージにおける平坦性・寸法安定性・低損失の観点を確認。
AGC「Strategic Business Initiatives」:ガラスコアの特性整理を確認。
DNP「New TGV Glass core Substrate Pilot Line」:TGVガラスコアのパイロットラインについて確認。
エレファンテック「SAphire™ G」:高アスペクト比TGVへの銅充填技術を確認。
数値・技術情報は公開資料に基づく説明であり、個別製品の仕様・保証値を示すものではありません。