電子材料業界の「なぜ?」を読み解く
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電子材料徒然草

電子材料・PCB・半導体業界の「なぜ?」を読み解く

管理人 平賀 兼好 (ひらが ケンコウ)

なぜ9μmの圧延銅箔は難しいのか?

― 薄くするだけではない、RA銅箔の製造ハードル ―

9μm(マイクロメートル)は、0.009mmです。数字だけを見ると「薄い銅箔」という印象ですが、圧延銅箔(RA銅箔)の世界では、単純に厚さを減らせば完成するわけではありません。薄くするほど、厚さの均一性、平坦性、端部、表面状態、機械的特性、搬送性、そして歩留まりまで同時に管理する必要があります。ここでは、9μmという数字の奥にある製造技術を見ていきます。

1.まず、9μmはどのくらい薄いのか?

9μmは0.009mm。数字だけでは薄さを実感しにくいかもしれませんが、電子材料の世界では非常に薄い領域です。ただし、電子材料で重要なのは「平均厚さが9μm」という数字だけではありません。

実際の材料では、幅方向・長さ方向にわたってどれだけ均一な厚さを維持できるかが重要になります。さらに、必要な機械特性や表面状態などを満たしながら、安定して量産できなければ製品にはなりません。

9μmの難しさは、「9μmまで薄くすること」ではなく、
「9μmの品質を、必要な幅・長さで安定して作り続けること」にある。

2.圧延銅箔は、どうやって薄くするのか?

圧延銅箔は、銅材をローラーの間に通し、厚さを少しずつ減らしていきます。一度に大きく薄くするのではなく、複数の工程を組み合わせながら、材料の状態を調整していきます。

銅材圧延焼鈍・組織調整再圧延仕上げ・検査

ここで大切なのが、圧延によって銅の結晶組織や加工状態が変化することです。薄さだけを追えばよいのではなく、最終用途に必要な強度・伸び・曲げ特性などとのバランスを取る必要があります。

3.薄くなるほど「厚さの均一性」が難しくなる

9μmの箔では、数μmの差が相対的に大きな意味を持ちます。例えば厚さ18μmの材料と9μmの材料では、同じ1μmの変動でも、9μm側のほうが厚さに対する比率は大きくなります。

そのため、圧延ロールの状態、圧下量、材料の温度、張力など、工程条件を細かく管理する必要があります。

管理するポイント薄箔で問題になりやすい理由
厚さ均一性わずかな変動でも相対的な影響が大きくなる
平坦性反り・波打ちなどが後工程の扱いやすさに影響する
端部品質薄いほど端部の状態や微小な欠陥の影響を受けやすい
表面状態微小な傷や異物などを無視しにくくなる
搬送性薄くなるほど、シワ・破れなどを避けた搬送が難しくなる

4.「薄い=弱い」と単純には言えない

ここも、銅箔を材料として見ると面白いところです。

薄くすれば、当然ながら断面積は小さくなります。一方、圧延や焼鈍などの工程によって、銅の組織や機械的特性は変化します。そのため、製品設計では厚さだけでなく、引張強さ・伸び・曲げ特性などを合わせて見る必要があります。

特にFPCなどのフレキシブル用途では、繰り返し曲げられることを前提に材料が選ばれるため、「最も薄い銅箔」がそのまま「最も良い銅箔」になるわけではありません。

5.では、電解銅箔なら9μmは簡単なのか?

ここで、前の記事で見た電解銅箔(ED銅箔)との違いが効いてきます。

圧延銅箔(RA)

銅材を圧延して薄くする。圧延・焼鈍・仕上げなどを通して、必要な機械特性と寸法安定性を作り込む。

電解銅箔(ED)

電解液から銅を析出させて箔を形成する。析出条件や添加剤、表面処理などを設計し、用途に合わせた特性を作り込む。

つまり、9μmという数字だけを見て、RAとEDの難しさを単純比較することはできません。製造原理そのものが違うため、それぞれに異なる技術課題があります。

6.なぜ「9μm」という数字が材料屋には気になるのか?

材料屋が厚さを見たとき、数字の後ろにいくつもの仕様が見えています。

9μm厚さ均一性機械特性表面品質歩留まり

さらに、実際の商談では「何μmか」だけでなく、必要な幅、長さ、加工方法、表面処理、用途、数量などが重なります。

だからこそ、「9μmを作れるか?」と「9μmを要求仕様のまま安定供給できるか?」は別の問いになります。電子材料の世界では、この違いが非常に重要です。

7.高性能PCB・AI時代とのつながりは?

薄銅箔の話は、高密度化・微細配線化という大きな流れにつながっています。ただし、ここで一つ注意したいのは、「AIサーバーが増えたから9μmのRA銅箔がそのまま増える」わけではないということです。

AI・HPCの進化が材料へ与える影響は、用途ごとに異なります。高速・高多層PCBでは低粗度の高性能銅箔が重要になり、FPCなどでは薄型化や屈曲性が重要になります。

つまり、AI時代に材料を見るときも、

「需要が増えた」だけではなく、
「どの製品で、どの仕様が厳しくなったのか?」を見る。

この視点が、材料市場を読み解くうえで大切になります。

8.まとめ

平賀兼好の徒然メモ
電子材料の話では、「9μm」という数字だけが独り歩きすることがあります。しかし材料屋の目線では、その9μmをどの幅で、どの均一性で、どの機械特性を持たせ、どれだけ安定して作れるのかまで見ています。数字を一つ深掘りすると、製造技術と市場のつながりが見えてくる。これが材料の面白いところです。